教育インタビュー「2万人以上の子どもを笑顔にした、伊藤美佳さんのモンテッソーリ子育て法」

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「子どもが、何か思い通りにならないときに、わざとお皿をひっくり返すなどをします」

「下の子が産まれてから、上の子がわがままになってしまいました」

子育てを応援する団体「輝きベビーアカデミー」の理事を務める伊藤美佳さん宛に日本全国の子育てママから、このようなメッセージが届きます。伊藤さんの専門は「モンテッソーリ教育」。この教育法をもとにした教育本の執筆、メールマガジンなどで、子育てママに向けて、様々な子育て情報を発信されています。

「モンテッソーリ教育」は、Googleの創始者セルゲイ・ブリン、ラリー・ペイジや、Microsoft創立者ビル・ゲイツ、オバマ元大統領、日本では藤井聡太棋士が受けていた教育法として知られています。 今回、子育てに悩む方や、子育てについて学びたい方に向けて「モンテッソーリ教育」から学べる子育てについて、伊藤さんにお話しを伺いました。


伊藤美佳さん

__「モンテッソーリ教育」とは、どのような教育法なのでしょうか?

子どもには、自ら自分を育てる能力「自己教育力」があります。子どもは生まれてすぐ、手で触れる、音を聞く、物や人などに五感を通して接するときに、この 「自己教育力」 が発達します。モンテッソーリ教育は、この能力を最大限発達させるために、子どもの育つ環境や教具(おもちゃ)を整え、生涯学び続ける姿勢を持つことで様々な才能を伸ばし、自立した人間を育てるための教育です。

モンテッソーリ教育のはじまりは、1907年にマリア・モンテッソーリが発案しました。もとは知的障がい児へアプローチすることで、知的水準を上げる効果を発見したことで広がった教育法です。



1907年にローマに最初に誕生した「子供の家(Casa dei bambini)」で、この教育法が実践されてから100年以上の歴史がありますが、現代の大脳生理学・心理学・教育学などの観点からも、その教育法の確かさが証明されています。

モンテッソーリ教育は100年以上も前に考案された教育法ですが、自らで生きる能力を発達させる教育法なので、自分で決断し行動する力が求められる現代の子どもたちにもピッタリな教育法なのです。


__伊藤さんは幼稚園・保育園・スクールで約28年間、2万人以上の子どもと関わり、3人のお子さまもモンテッソーリ教育で育てられました。この教育法は具体的に、子どもたちにどのような変化をもたらすのでしょうか?

モンテッソーリ教育は、自分でやりたいことができる環境を整えてあげることです。私の長男は通常の幼稚園に通っていましたが、長女はモンテッソーリ幼稚園に通わせたところ、その違いに驚きました。例えば、「なわとびがやりたい→鉄棒がやりたい」と思うと、やりたいことを自分が納得するまでできる環境だと、驚くほど上達していくのです。

外で遊ぶのはもちろんですが、先生と教室で塩水から塩を作る実験をしたり、アイロンがけをしていたり、普通の幼稚園だったら危ないという理由でなかなかさせてもらえないことも、先生に見守られながら、子どもたち自身が考えて挑戦している姿にとても感動しました。

「そんな自由だと、我慢ができない子になるんじゃないの?」と、心配される方もいますが、実は自分が納得するまで、やりたいことをやらせてもらった経験がある子は状況を見て我慢もできる子に育ってくれます。

通常の幼稚園では活動の時間が決まっています。子どもが続けたいと思うことも途中でやめて、自分のしたくないことを強制されることも少なくありません。この環境では、子どものモチベーションも下がり、子ども自身が考えて成長できる機会を逃してしまいます。モンテッソーリ教育は、その機会を逃しにくい環境のため子供たちの様々な才能の成長に大きな差がでてきます。



__ 子どものしつけについて、伊藤さん自身は子育てにモンテッソーリ教育を取り入れて、どのような変化が?

モンテッソーリ教育に出会う前は、自分の子どもたちに対して「形だけのしつけ」を強制する母親でした。例えば、「ごめんなさい」と言いなさい! と叱ったり。なぜ相手に「ごめんなさい」と謝るのか、子どもに気づかせる方法ではなく、謝り方だけを押し付けていました。子どもは形だけのしつけをすると反発するので悩みましたね。

モンテッソーリ教育を実践してわかったことは、教育はこうしないといけない、「他人の目を気にした教育」にとらわれていたのだと、モンテッソーリ教育に出会ってから気が付きました。「自分の子どもがどう思っているか」は考えていなかったんですね。

それから、この子の行動にはきっと何か意味があるんだろうな、と思えるようになりました。私が子どもに何かしてほしいときに声をかけるとくは、まずは子どもを観察するようになり、声のかけ方も「~が楽しいんだね!」と、子どもの行動に共感するようにしました。子どもの行動には意味があります。それを理解し共感してあげると、子ども自身がやるべきことを考えてくれて、親の言うことも理解してくれるのです。



__モンテッソーリ教育を実践したい場合、何から学べば良いでしょうか?

教務的なこと、モンテッソーリ幼稚園で働きたい方などは、モンテッソーリ教育の資格が取得できる学校で勉強すれば良いと思います。

こういうときは、言葉をどう交わすの? とか、どのような考え方で関われば良いの? という子育ての具体的な内容に関して学びたい場合は、心理学やコーチングといった勉強が私も子育てする中で特に役立つと感じました。

モンテッソーリ教育で提唱している「子どもと接するときの心構え12カ条」があり、これは教育の真髄に触れています。これを理解されて子どもと接するだけでも、子育てにかなり役立つと思います。



__伊藤さんの最新の書籍『マンガでよくわかる モンテッソーリ教育×ハーバード式 子どもの才能の伸ばし方』でも、「子どもと接するときの心構え12カ条」をご紹介されています。これを、ご自身の教育の経験をもとに「子どもへの接し方8カ条」と、よりわかりやすいようにまとめられていますが、この中で特に実践してほしい接し方はどれでしょうか?

「全てを受け入れる」ということでしょうか。これはとても難しいことですが、「あなたはあなたのままでいいよ」というメッセ―ジにもなります。親はどうしても、子どもを自分の思う通りに動かせたいと思いますし、その方が都合の良いときもあります。

一つ前にお話しした通り、まずは子どもを観察し、意志と行動を理解し、共感してあげることができれば、子どもは「自分は間違ってはいないんだ」と自信が持てるようになります。これができる親子は関係も良好になります。

ここで「あなたが悪い!」などと接してしまうと、子どもは自分自身を否定し、自分の存在意義がないと感じてしまいます。そうすると、何をしても上手くいかない、モチベーションが上がらない、という人間に育ってしまいます。親の子どもの接し方には特に注意が必要です。

伊藤美佳さん著書『マンガでよくわかる モンテッソーリ教育×ハーバード式 子どもの才能の伸ばし方』


__書籍では、子育ては0~3歳が特に重要とご紹介されていましたが、具体的にこの時期はどのような子育てを意識すれば良いのでしょうか?

実は0歳~3歳までは、脳内の神経細胞が外部からの刺激により約80%が急速に、様々な神経回路を繋いでいく大切な時期なのです。この時期に、脳内であらゆる行動を組み立てたり、思考したり、実行したりする機能を司る「前頭連合野」も発達していきます。ここに成長時期に適した刺激を繰り返し与えることで、より発達を促すことができるのです。

脳内の「前頭連合野」に刺激を与えるには、「9つの知能※」から満遍なく、遊びを通して楽しく経験していくことが良く、特に口と手指からの刺激が効果的です。

よく3歳からお稽古などを習わせるという方も多いですが、実は3歳までに様々な分野からのアプローチ(刺激)が良いとされています。アプローチの仕方は言葉をかけたり、体の発達を促すように運動をさせたりなど様々です。

※「9つの知能」…ハーバード大学のハワード・ガードナー教授が提唱している「多重知能理論」を取り入れ、伊藤さんが日本人向けにアレンジし開発した、9つの知能のこと。体・自分・言葉・人・感覚・音楽・自然・絵・数の知能の発達を促す。


伊藤美佳さん著書『マンガでよくわかる モンテッソーリ教育×ハーバード式 子どもの才能の伸ばし方』で紹介されている「9つの知能」(提供)

子どもは、寝返りしたりハイハイをしたり、つかまり立ちをするなど、プログラム通りに成長します。これを促す環境を整えることが大切です。泣くという行動も、口を大きく開けることで喉や発声の機能も発達します。安全面など、子育て中に心配することも多くありますが、0~3歳のうちに、何らかの行動を制限させすぎてしまうと発達が遅れてしまいますので、発達に応じて、教育のレベルを変化させると良いでしょう。

子どもも、自分でできる! という経験をたくさん与えられると、単に、記憶・繰り返し練習の習得方法ではなく、問題の本質を見抜き、どう解決できるかを自分で考えて行動できる力がつきます。そのことが、総合的な記憶力・思考力・判断力を磨くことができるのです。



__ 「9つの知能」を実践する場合、例えば0歳からなら、どの順番で発達を促せば良いでしょうか?

できれば、3歳までに隔たりなく実践してほしいですが、強いて優先順位をつけると、体・自分・言葉・人・感覚・音楽・自然・絵・数の知能から発達を促してほしいです。

「体」は運動です。「自分」は鏡を見せたり、自分自身で自分の体に触れさせたり。背中がどこにあるか知らないまま育つ子は、ハンモックに手足から乗ってししまうなど、運動機能の発達が遅れてしまいます。

「絵」や「数」は親の目に見えやすいため、評価しやすく子どもに優先させたくなりますが、見えない能力の土台の部分が発達に大きく関わりますので、まずは土台をしっかり育むことを意識してほしいですね。



__伊藤さんはモンテッソーリ幼稚園の教諭として働かれた経験や、モンテッソーリ教育を取り入れた幼稚園の代表職も務められたとのことですが、実際の現場はどのようなものだったのでしょうか?

そうですね。私は育児の合間に教育法を勉強して資格をとり、下の子が幼稚園に上がった頃に、長女が通っていたモンテッソーリ幼稚園に就職しました。

実はモンテッソーリ教育は、子どもの成長が驚くほど速いので、教える側もとても楽しいです。成長が早すぎて教材を作るのは大変ですが、子どもたち自身が本当に挑戦したいと思うことをサポートして見守ることができます。子どもたちが挑戦し、できたときには、子どもたちの心の底からの笑顔や喜びを感じることができます。

朝・昼など大きな時間の区切り以外は自由な時間がほとんどなので、子どもたちが納得するまで、やらせてあげられる教育環境で、先生の方もいつまでに何かをしないといけない、というストレスも少ないです。

先生が管理しなかったら、子どもはいつまでも遊ぶのでは? と感じる方もいるかもしれません。実は子どもたちは自分で考え行動する中で、時間の管理についてもしっかり学んでいます。幼稚園で先生に言われるがまま、時間に管理された環境で育った子よりも時間が守れる子に成長してくれます。



__その後、別の幼稚園の代表職も務められたとのことで、新しい幼稚園では、もともとモンテッソーリ教育は導入されていなかったのでしょうか?

はい。いわゆる伝統を守る幼稚園で、一日のスケジュールもきっちり決まっていて、現場も先生方が上からの指示・命令通りに動かなくてはならない体制でした。教える先生も子どもたちも、保護者でさえ委縮してしまっている雰囲気の幼稚園でしたね。



__その中でモンテッソーリ教育を実践された?

そうですね。私自身も幼稚園で勤務していた頃、とても古い体制を変えられない現状を目の当たりにしたこともあるので、厳しいことは覚悟していました。

この幼稚園は、教える側の大人たちが心の底から笑顔になれていない、楽しそうじゃない。そのような大人たちと接する子どもたちも、きっと心の底から楽しいと思ったり、笑うことはできないと危機感を抱きました。

子ども自身が主体的に活動できる環境にするためには、まずは変わるべきなのは、私たち大人、先生たちだ、と。



__そこから幼稚園の教育改革がはじまるのですね。

そうですね。従来はやらなくてはいけないことが多く、必ずやり終えないといけない、という雰囲気でした。そのやることも毎年同じで、年十年も同じことの繰り返し。まずは先生たちの意識をかえるため、従来の受動的な仕組みではなく、先生が主体的に動ける仕組みにしました。

例えば職員会議、従来は積極的に意見を言えない、誰か強い意見のある人に従うというもので、夢や希望もたくさん持っていた新しい先生も、それを言わせない環境でしたが、役割を与えて意見を言える仕組みにしたら、先生たちも自分たちの意見を積極的に出し合えるようになりました。先生たちも、自分の意見が反映されていくので、喜びや楽しみ、やりがいを感じてもらえるようになりましたね。

また、モンテッソーリ教育の「自己教育力」で育つ子どもたちの姿を、先生たちに見てもらいたかったので、モンテッソーリ教育ができる部屋を一部屋作りました。従来の指示命令される教育との違いを感じてくれたのでしょう。先生たちは進んでモンテッソーリ教育を取り入れてくれるようになったのです。

先生たちも子どもたちに「次はどんなことをしたい?」と質問するようになり、笑顔で子どもが答えるようになりました。大人も子どもも、受け入れてくれるという安心感があれば、積極的に行動してくれる、意見もたくさん出してくれる、ちゃんと行動してくれるようになるんだと、経営者としてはまだまだ未熟な私でしたので、一から心理学やコーチングなどを学ぶとても良い機会にもなりました。

子どもたちは、目を輝かせながら幼稚園での楽しい出来事を保護者に話すので、保護者の安心と信頼にもつながります。保護者の間でも「ここの幼稚園は先生たちが本当に楽しそう」「先生の笑顔がとっても良い」と評判になり、私の中では入園者数に特にこだわりはなかったのですが、募集時期に行列ができるほどの人気園に成長してくれましたね。



__伊藤さんはその後、独立し株式会社D・G・P設立され、子育てを応援する団体「輝きベビーアカデミー」の理事を務めながら、子育てママを対象にした講座や、モンテッソーリ教育のインストラクターの養成、書籍の執筆や日々のメールマガジンの配信など、積極的に活動されています。現在の教育活動は、どのような思いではじめられたのでしょうか?

私が代表職を務めた幼稚園で、先生が変わると子ども達の目もキラキラと輝きました、それが保護者にも伝わり、広がっていったのを見た時に「もっとこの教育法を全国のパパやママに伝えたい!」と思いが起業のきっかけでしたね。そして、モンテッソーリ教育は幼稚園などで実践されていますが、ママ自身が家庭でできるようになってほしいという思いもあります。

輝きベビーメソッド体験講座の様子(輝きベビーアカデミー提供)
会社では350人以上のインストラクターを養成している

また、便利な子育てグッズなども多くありますが、便利さだけを重視して、子どもの発達にどのような影響があるのかを知らないママたちも多いです。

例えば、抱っこ紐は便利ですが、抱っこ紐の中に長時間いる子どもほど、発達が遅い傾向があります。自由に動き回ることで発達する機能や筋肉などが十分に発達せず、実はハイハイをまともにできる子も少なくなっているので、程よく賢く便利な子育てグッズを利用することを、しっかり伝えたいです。また、0歳から自宅で育児を楽しみながら、お子様の発達も促せる方法なども、私の活動を通して伝えていきたいですね。



__その教育の発信方法の一つにメールマガジンがあるのですね。無料で読めるとのことで、ご家庭にも嬉しいサービスです。

メールマガジンをしていると日本全国の方々から、色々なメッセージをいただくので、その質問やお悩みにお答えしていますが、最近の子育ての悩みの傾向もよく理解できると内容だと思います。特に今は、コロナウイルスの影響で子育てに悩むママも増加していますので、それに役立つ様々な情報も配信しています。





__今後、伊藤さんはどのような活動を予定されているのでしょうか?

古い体質のままの幼稚園は、全国にもまだまだあります。教育業界は改革の歩みが特に遅く、今の時代にこんな教育をしてしまう幼稚園があるんだ! と保護者からの相談を聞いて驚くこともたくさんあります。そんな幼稚園に対して、もっと子どもを信頼して、自由な行動をさせてあげよう、と声がけを広めていきたいと思います。

その他に動画配信の事業もありますが、今回のコロナウイルスの影響で、オンラインの講座も充実させることにしました。オンラインにすることで、全世界に配信ができて、遠くにいるママたちにも「輝きベビーアカデミー」の取り組みについても知ってもらうことができました。

今、自己肯定感で悩むママがとても多いです。ママが子どもの時に、受け入れられていない教育を受けると、子どもにも同じ教育をしてしまう傾向があります。子どもに自己肯定感を持たせるには、まずはママに自己肯定感を持ってもらわないといけませんよね。そのためのプログラムも考案中です。まだまだ、たくさん挑戦したいことがありますね。

伊藤美佳(いとうみか)
0歳から天才を育てる乳幼児親子教室「輝きベビーアカデミー」代表理事。株式会社D・G・P代表取締役。幼稚園教諭1級免許。日本モンテッソーリ協会教員免許。幼稚園・保育園、スクールで28年間、2万人以上の子どもたちと関わる。自身の子どもがモンテッソーリ教育の幼稚園ですばらしい成長を遂げたことに感銘を受け、モンテッソーリ教師の資格を取得。モンテッソーリ教育を紹介していくなかで、IQ以外の才能を見つけるハーバード大学教授の「多重知能理論」を取り入れ、日本人向けにアレンジしたオリジナルメソッド「9つの知能」を開発。子どもの隠れた才能を発見し、最大限まで伸ばす手法として、スクールでも取り入れている。現在、自身のスクールで幼児教育に携わるほか、全国の保育園・幼稚園・スクールで教員向けの指導もしている。著書に『マンガでよくわかるモンテッソーリ教育×ハーバード式子どもの才能の伸ばし方』(2020年 かんき出版)など。

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